父の事

私は夫によくファザコンだと言われる。
確かに幼い頃の私にとって、父は恋人のような存在だったのだろう。
父も又私をとても愛してくれた。

背の高い父の肩車に乗ると、世界中が見えるような気になっていたこと。
田んぼで一緒につくしを摘んで、家で卵とじにして食べた日のこと。
父の単車の後ろに乗って、新しい家の芝生を探しに行った日のこと。
ねずみがネズミ捕りにかかった日の夜、こっそりチーズをあげよとしたら網から逃げてしまった時の私と父の秘密。
カンナでカキ氷をつくってくれた暑い夏の日のこと。
おにぎりをもって、一緒に絵を描きにでかけたこと。
父が天ぷらを揚げるときはいつも私は呼ばれて、油から具を引き上げるタイミングを教えてくれた事。
魚のさばき方、酢味噌の味、蕗の皮のむき方、マヨネーズの作り方・・・皆教えてくれていた事。
次から次へと思い出される場面・・・・・
その一つ一つが父にもらった私の大切な宝物。
そしてこの宝物は、私の人生の時々で心の大きな支えとなっている。

母が病気がちだったので、父はたくさんの苦労を背負って私と弟を育ててくれた。
それなのに生きていた時は、お酒を飲んで大きな声で威張ったり、愚痴を言って泣いたりする父が
イヤで仕方なかった。
その上、父の愛情がしだいに息苦しくなって20代の頃に家を離れてしまった私。
「ごめんなさい」も「ありがとう」も全然素直に言えないままに。
父が他界した13年前の今日、イヤだった思いは涙ですべて融けてしまったような気がした。

料理をつくるとき、庭で畑作業をするとき、絵を描くとき、散歩に出たときいつもいつも
父の声が聞こえるような気がする。
「あっ、そこで砂糖をいれろ」「その植物は抜くな」「筆をもっと大きく動かせ」「これはホトトギスという花だ」

とても大事に育ててもらったお礼ができないまま、こんなに年月がたってしまった。
今日せめても、という感謝の思いで父の作品2つをUPした。

いつも私を見つめてくれていたお父さん、本当にどうもありがとう。