「キミ子方式」で描く水彩画の教室を始めました。

 
2006年


 以前から思案中だった「キミ子方式」で描く水彩画の教室を、この5月からようやく始めました。

 私は10年前からフォークアート(トールペイント)の自宅教室を行っています。トールペイントとは、小物などの家庭用品に、あらかじめ出来上がっている図案を写しとり,それに沿って絵を模写していく工芸です。
けれど私は教室を運営しながら、模写ではなくて自分の絵を描けるようになれば・・・と思いつづけてきました。そんなあるとき、図書館で「キミ子方式」を紹介する本『80歳の母が絵を描いた』を見つけました。そしてそこには、不思議な絵の描き方が紹介されていました。



 絵を描くということはなぜ難しいのでしょうか。まず、普通の人は物の形をとる事が出来ない、美術の学校などでデッサン等を繰り返し練習した人でない限りむつかしい。そこでこの方式では、輪郭線を描かずに直接筆で絵を描く。たとえば、画用紙を2枚用意し一方の画用紙に収まるくらいのモデルを置き、お習字のときのようにそのとなりの紙にモデルを描き写していく。また、描き方はあちこち飛ばず、描き始めの一点を決めてそこからとなりへ、となりへと進んでいく。絵の具は何色も使わず基本の3原色(黄、赤、青)と白のみを使い、色を作りながら色の違いを追っていく。そうする事で実物を自然に良くみるようになれる。 もし疲れたらそこで終わり画用紙の余白を切って完成させる、はみ出しそうになったら紙を付け足す。するとどこで終わっても完成になる。植物は成長の方向で、動物はなでて気持ちの良い毛並みの方向で、などなど。
この本の中には、松本キミ子さんが提唱する絵の描き方=絵が苦手、描けないと思っている人達こそが楽しく描けるようになる方法である「キミ子方式」が紹介され、キミ子さんの、「絵は自由に描くものではなく、自由になるために描く」と言うメッセージが書かれていました。そして何より、この方法で素敵な絵を描き始めた80代のおばあさん達が紹介されていました。



 私は、(これなら私でも描けるようになるかもしれない)と言う思いで「キミ子方式」を習いはじめました。そして本当にたのしく作品を描く期間を夢中で過ごし、気が付いたらこんなに楽しい事を誰かと共有したいと思うようになりました。
最近は私のトールペイント教室でも、色を混色してみる事や、植物や動物を描くときの筆運びの方向など、「キミ子方式」で習ったことを部分的には取り入れています。けれど「人の描いたものを模写する」と言う制約から私も生徒さんも抜け出せず、他人から「絵が上手ねえ」といわれ、みせかけのプライドだけが育ち、本当の自信が養われていかないギャップを感じてきました。自信がつくと言う事は、人に自慢できるようになると言う事ではなくて、モデルである対象を理解でき、深く感じられるようになるということだろうと思います。それは誰かと比較し競うわけでもなく、むしろ励ましあいながら嬉しい気持ちを分けて共有できるようになるということではないでしょうか。



 私は昨年の6月、農作業中に脚立から転落して、右腕をひどく怪我し使えない状態になりました。せっかく楽しみにしていた庭の花々やサクランボ、イチゴなどができてきた季節を布団の中からただ眺める毎日でした。それでも、あまりの庭の華やぎに心を奪われ眺めているうちに(もしかしたら左の手で描けるかも)と言う気になり「キミ子方式」で恐る恐る絵を描いてみました。「1点からとなりとなりへ」「疲れたらそこで終了」「小さくても、たとえ花の花粉1つでも画用紙の余白を切り取れば1つの作品」・・・・など、「キミ子方式」で習ったことが私を支えてくれて左手で描いた絵が出来ました。できあがった絵はたどたどしい不器用な線ではありましたが、今までトールペイントで描いてきた流れるようなストロークよりも、ずっと真剣で誠実で心のこもった作品でした。そのとき私は、「絵はテクニックの上達」で描くわけではないと実感しました。ケガをしていたので何も出来ず、1日5センチ四方の絵を1つ描くのが私の生活の励みでした。でもたっぷりとある贅沢な時間の中で、描きながらあることに気が付きました。それは、実物を描くということは、においがあると言うことです。薔薇の花には気品あるにおい、サクランボには桜のにおい、いちごには甘すっぱいにおい、天然酵母パンには小麦の香ばしいにおい・・・・あたりまえの事ですが、描いているモデルと向かいながら私はその匂いと色を受け取っていると実感しました。
「キミ子方式」では、モデルをさわる事を教えてもらいました。実物をさわり、においを知りそのモデルをたくさん感じて、見えたとおりに自分に誠実に筆を進める、ゆっくりと流れる時間の中で私はこれを体験していると感じました。



 この村で「キミ子方式」で身近な草花や自分の作った野菜や果物、木や空や山、たわしや漬物樽、石垣や土蔵など村にある素敵なものを、絵がかけないと感じている人たちと一緒に絵にしていけたら・・というのが私の思いです。でも、私自身絵がもっと上手くなってからではないと教室は始められないと、これまで躊躇してきました。ところが先日キミ子さんから「生徒さんが描いた絵は教えている先生一人が描く絵より素敵に決まっている、なぜならその絵は生徒と先生の合作だから」と言う話を聞き、霧が晴れたように感じました。 (そうだ!きっと絵の先生は私ではなくて目の前にたくさんある草花や実や空、木、建物・・・で、私はただその描き方を知らせる人なのだ)と。だから今は、「絵が描きたいけれど描けない」と思っている人、私と一緒に描いてみませんかと呼びかけます。
身近にある素朴なものを絵にしていきながら楽しい時間を共有できたら幸せです。


   なお、「キミ子方式」は豪華な絵の具セットは必要ありません。基本の3原色を混色しながら描くので、絵の具はペンテル水彩の白、黄色、赤、青、藍色のみです。 筆も、ペンテル0号、4号、16号の3本です。「キミ子方式」は、お金をかけずに心豊かになれる絵の描き方です。

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