山里通信
木もれ日だより (2011年11月)

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【いよいよ晩秋の収穫です】
 秋の信州はあわただしくすぎていきます。9月の末に中生種のりんごの収穫と稲刈りをすませ、10月の半ばに米の脱穀がおわると、すぐに今年最後の作業、晩生種の王林、ふじの収穫へと続いていきます。11月に入ってふじが色づき蜜も乗りはじめ、作業場には収穫の始まった王林特有の高貴な香りがいっぱいにたち込めています。
 木もれ日農園では、樹上完熟をめざして、雪の降り始めるぎりぎりまで待って収穫を開始します。りんごやぶどうの栽培にとって、ここは北限の村です。すぐ隣の木島平村や飯山市では、豪雪のためにもう果樹栽培は不可能で、この地域でも先人たちが苦労して雪とたたかいながら山麓に畑を切りひらき、灌漑設備を整備し、果樹生産の基盤を作りだしてきました。
 11月の寒い朝には、果樹園の広がる高社山の峰の中腹まで雪におおわれます。農家は天候をにらみながら収穫の日程をそれぞれに考え、今月は村全体にはりつめた空気が流れています。


【低農薬栽培で】
 木もれ日農園では、当初から低農薬栽培を続けています。有機農業の世界でも、「果樹栽培は無農薬では難しい」と いわれているのですが、毎年、少しでも農薬を減らすこころみを続けています。 一般にりんご栽培では、年間30剤以上(!)の農薬をかけるのですが、今年度の木もれ日農園では、 昨年よりも少ない13剤に抑えることができました。
 今年は地域一帯で病害虫も多く、この農園でもりんごの葉がひとしきり傷み、害虫もいくらかは発生したのですが、 なんとか無事に収穫をむかえようとしています。
 福島原発の事故によって撒き散らされた放射能が、様々な食品を広く汚染してしまいました。 農薬の害も同じように生態系を壊し、様々な発ガン性の危険をはらんでいます。 農薬と化学肥料が主流になってしまった時代の中でも 、そうではない農業をめざしてじっくりと取り組んでいこうと 考えています。
(木もれ日農園ではこの秋の収穫を前に、木もれ日農園の農産物の、ゲルマニウム半導体検出器による放射能測定を行いました。)  


【自然エネルギーの試み】
 長野県は、もともと水力発電もさかんで、自然エネルギーの利用には好条件の地域だといわれていました。今回の原発事故を受けて、周辺の志賀高原や木島平をはじめ県下全域で、いろいろな自然エネルギーの実験が行われるようになりました。小さな滝や農業用水を利用した小水力発電、地域で水車を作り炭焼き小屋の電灯に使う例、また雪の多い地域では雪氷熱を利用した冷房の試みなど様々な取組みがはじまっています。
 3月以来、世の中全体でもエネルギー問題への関心が高まり、地域自立型のエネルギー、地域分散型のエネルギーの大切さが強調されるようになっていますが、山村で暮らしていると、「エネルギーの地産地消」への期待もぐっと身近なものに感じます。先日の村の文化祭で  この地域の果樹農家では、毎年剪定した枝で消し炭を作って冬場の掘りごたつの暖房に利用したり、薪ストーブに使ったりします。りんごの枝は火力の持ちもよく、最上の薪のひとつで、それを利用してチーズや魚の燻製を作ることも出来ます。
 ここに住む人々は、ただ昔を懐かしんでそんな暮らしを守り通しているだけではありません。農家は時の流れにも敏感で、今はインターネットの時代。ウォール街のデモのことも、南アで今月、第17回気候変動会議が開かれることも知っています。自然と共にある暮らし方も、むしろ将来への選択として意識的に選び取っているのかもしれません。そんなことが出来る豊かさが、この山村にはまだたくさん残されています。



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